「誓願」

「侍女の物語」で描かれた、女性が抑圧されて暮らしている恐怖社会ギレアデのその後を、司令官の娘として生まれたアグネス、隣国カナダで生まれたデイジー、そして政府の中枢にいるリディア小母という三人の主人公の目を通して描き出す。
「侍女の物語」は、司令官の妻に代わって子供を産まされる侍女オブフレッドの内省的な語りが、錯綜する過去のフラッシュバックのなかで展開したのに対して、「誓願」はより線形で、典型的なスリラーの構成を踏襲している。それでも、リディア小母の回想からギレアデの作中での現在が立ち上がり、アグネスとデイジーが回想として証言する言葉からこの世界にも未来があることが見えてくるといったように、重層的な一人称の語りの中に歴史の流れが描かれる手腕はさすが。
この物語には、筋としての終わりと、「侍女の物語」でも描かれた未来のシンポジウムの二つの結末があるのだが、それぞれのラストで歴史における個人が決して無力ではないと信じさせてくれる希望が見えてくるところが忘れがたい。
世界がしだいにギレアデ化し、それに対抗できる力が一つ一つ欠けてゆく時代において、この作品にはあらかじめ約束された希望として読み継がれる価値がある。
引用
いざというとき、人が興味なり重要さなりを感じるのは、自分自身の悪夢だけなのだ(230p)
登場人物
- リディア小母(Aunt Lydia)
- アグネス(証人369A)
- デイジー(ジェイド、証人369B)
- ベッカ
- ジャド司令官
- ヴィダラ小母