パーシヴァル・エヴェレット「ジェイムズ」

マーク・トウェインの「ハックルベリー・フィンの冒険」を、あの黒人ジムの視点から再構成した小説。あの魅力的な人物像に、白人たちの前では見せないもう一つの顔があったとしたら…? を切り口に、奴隷制の理不尽さを皮肉に描き出す作品。

ハックの造形にも変更が加えてあったり、詐欺師の公爵と国王、あるいはサッチャー裁判官といったキャラクターが原作とは異なる、シニカルな存在として描き出されていることにも読者は気づくはず。そのすべてが、視点がジムに移っていて、彼らの人物像をみるときの前提が変化していることを出発点している。

読む際には、ハックルベリー・フィンの冒険のあらすじをざっと確認しておくのがよいだろう。

差別用語の使用

本作品はジムの目からみた黒人差別が大きなテーマなので、黒人に対する蔑称(“nigger”)が頻繁に登場する。しかし、原作同様に、ハックがこの言葉に対して気後れしている表現、他の白人が遠慮なく使うときの口調などといったように、物語をダイナミックに突き動かす言葉になっている。

この言葉の使用がたびたび問題になり、「ハックルベリー・フィンの冒険」を学校で教えることを禁止しようとする動きが2016年頃になっても継続していること、また、2011年にはこの用語を別の表現に変えた「薄めた」バージョンの「ハックルベリー・フィンの冒険」が作られるといったように、現代でも議論が絶えない。

「ジェイムズ」では、あえてこの言葉が頻繁に、正面から取り扱われており、ジムの目からみた差別の苛烈さや、奴隷を相手にしていると急に単純化する白人たちを皮肉に描き出す効果を生み出している。

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2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。