「メイスン&ディクスン」(上)

1997年に発表されたトマス・ピンチョンの小説。
独立戦争直前のアメリカでペンシルヴァニア州、メリーランド州、デラウェア州、ウェストバージニア州の境界を定めたメイソン・ディクソン線を測量した二人の測量士、チャールズ・メイスンとジェレマイア・ディクスンの旅行譚を描いている。
文体は非常に特徴的で、18世紀の英語のような、そこら中に大文字が多用された追いにくい文章をしている。さらにそれが枠物語の形式になっていて、1786年の冬にチェリーコーク牧師という人物が親戚を楽しませるために二人の物語を話して聞かせているという枠の中に、二人の珍道中、さらにはそこで語られる内容が相互に埋め込まれて焦点が移り変わりながら進んでゆく。
メイソン・ディクソン線は象徴的には北部と南部(ディクシー)を分断する線であり、アメリカの奴隷制の分かれ目であり、アメリカという国の宿命を描いた線だといえる。
思い出
この本は2013年の海洋地球研究船「みらい」の北極航海に乗船した際に持っていって、北極海の上で読み切った思い出がある。喜望峰を越えたあたりでオーロラを見上げたり、船がセイウチを追いたてている頃に二人のアメリカでの旅路を追っていたのは忘れがたい体験だった。