レイラ・ララミ「ムーア人による報告」

1528年に現在の米国フロリダ州に上陸したパンフィロ・デ・ナルバエス率いるスペイン人の征服者たちの一行には、一人のモロッコ出身の黒人奴隷が同行していた。

黄金と財宝への渇望に突き動かされて内陸に進んだ遠征隊は、現地民の襲撃に繰り返し遭遇し、やがて瓦解してゆく。放浪を続け、8年後にメキシコのスペイン人居住地にたどり着いたのはアルバル・ヌニェス・カベサ・デ・バカ、アロンソ・デル・カスティーリョ・マルドナド、アンドレス・ドランテス・デ・カランサ、そしてこの黒人奴隷、通称エステバニコの4名だった。ここまでは史実として残っている情報。

この小説は、このエステバニコという黒人奴隷を本名ムスタファとして描き出し、彼がいかにしてアゼンムールで生まれ育ち、奴隷となったのか。どのようにして生き延びたのかについてを想像力で補完してゆく。

カベサ・デ・バカによって出版された史実の “La Relación”「報告」に対して、この小説はムスタファの視点から自由について、生存することの意味について「報告する」。

壮絶なサバイバルと、遠征隊の白人たちや現地人たちをみつめるムスタファの内省的視線が際立つ、見事な歴史小説。

パンフィロ・デ・ナルバエスのフロリダ遠征

作中には当然のことながら地図が存在せず、登場人物たちもどこにいるかわからずに放浪しているので、スケール感が読者にも伝わりにくくなっている。読んでいるときには、順序として:

  • タンパ湾付近に上陸して北上
  • アパラチー湾付近まで陸路を進んでから筏を作成
  • ミシシッピ川を筏で通過しさらに西進
  • 内陸に進み、メキシコ高原を太平洋側に向けて通過

これを8年かけて描写していると覚えておくとよい。

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(Lencerによる図。リンク。CC BY-SA 3.0)

パヌコの港

作中で放浪する遠征隊が「パヌコの港」を探しているが、それは永遠にたどり着くことができない幻のように描かれている。

実際、ヌエバ・エスパーニャのパヌコの居留地はメキシコ湾の西側、Rio Panuco の河口、現在のタンピコの町あたりになるので、アパラチー湾から行こうとすると直線距離でも1600km、湾伝いにいくなら2000kmの距離がある。見つからないわけだ…。

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2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。