「なにもしない」ことができるVRワールド: at Home Chill by Ourai Inc.
廉価なVRヘッドセット Meta Quest 3S も発表されてニュースになっているので興味をかき立てられている人もいる一方で、いまでも「自分がVRを使っているところ」を想像できなくて踏み切れない人もいる気がします。
というのも、よくあるVRヘッドセットの広告は全身でゲームをアクティブに楽しんだり、クリエイティブな制作に打ち込んだり、といったシーンが多すぎて、少々暑苦しいんですよね。そんなアクティビティをしている自分を想像できなくても無理はありません。
しかし本来、VRは「ここではない場所・時間」を体験できるものです。
それはもっと落ち着いた、一人か少人数で呆とするだけの、なにもしていない時間であってもかまいません。積極的になにかをするのではなく、なにもしていない状態を作るために世界から仮想的に離れるわけです。
今回、いつもお手伝いさせていただいている「往来」のプロデュースした少人数用のこじんまりとしたワールド「at Home Chill」がそんな用途に最適なので、写真でご紹介したいと思います。
VRでできることの一つが「なにもしないこと」であるのをイメージする助けになれば。
ワールドの見つけ方
VRChatに慣れている人ならば、検索窓から「at home chill」とワールドを検索するだけですぐに見つけることが可能です。
VRChat内での操作に慣れていない人は、ワールドのURLであらかじめ Favorite に入れておくか、自分で自分を招待する操作をしておくと話が早いかもしれません。
ワールドは PC と Android(Quest)の両方に対応していますので、ヘッドセットのみをもっているユーザーでも楽しめます。
会話のぬくもりが届く狭さ
ワールドに入ると、立っているのは熱帯雨林のただ中にしつらえられたウッドデッキ。木漏れ日がカーテンのように広がっています。
そうそう、実際の熱帯も湿度が高いので光はこうして触れられるように光るんですよね。光だけで、肌に粘りつくような熱帯の蒸し暑い空気を思い出しそうになります。
奥に進むと、数人が集まるだけでいっぱいになりそうな空間にソファと映像を映し出しているスクリーンが。かなり狭いのですが、これは声を大きくしたり近寄らなくても会話ができる距離を意識しているのがわかります。
VRChatで、ワールドは広いのに会話のために密集しているシーンって結構ありますものね。ここはそうしたことは気にする必要はなさそうです。
もう片側にはハンモックが。全身をセンサーでフルトラッキングしている人が、ここに横たわってソファにいる人とだらけたおしゃべりをしている光景が想像できます。
明かりを落として雰囲気を
ワールドにはコーヒーメーカーとお酒も数本置いてありますので、現実でお酒をのみつつVRでグラスを傾けることもできます。現実に飲めるわけではないのになぜグラスを、と思われるかたもいるかもしれませんが、これが意外に大事です。
人と会っているときに、VR空間内で棒立ちになっているのではなく、ちょっと手元の動きがあるだけでリラックスしますし、会話が弾みます。多くのワールド制作者が経験で知っているのですが、意識して考えてみると面白い効果ですよね。
テーブルの上には「往来」で制作した書籍「仮想空間とVR」のお試し版と、CGWorldのVR特集の紹介ページが置いてあります。手にとって読むことができます。
そしてこのワールド、一番気に入ったのが光の明暗を細かく調整できるところです。たとえばこのように昼のワールドが:
最も暗くするとこのように宵が訪れたような光に変えることができます。スライダーで連続的に変えることができますので、好きな明るさにして仮眠をするのもいいでしょう。
特にやることはない。それがいい
撮影のために一時間ほどソファでごろごろしていましたが、これは一人で過ごしてもいいですし、二、三人程度のおしゃべりにも最適なワールドでした。好きなYouTube動画をつけて次から次へと流し見するのもよさそうです。
VRといえば、とにかく「なにかをする」ことが前面にでてきがちですし、それはたいてい大勢の人と会うことを意味しますので、私のように人混みに酔うタイプの人間にはときどき too much に感じられることがあります。
でも片隅にあってこうして一人で時間を過ごせる、何もしないだけのワールドもいくつか覚えておくと良いでしょう。