アメリカ大統領候補を選ぶ2つの仕組み、党員集会と予備選挙の違いについて

2020 年 02 月 05 日

今年は4年に一度のアメリカ大統領選挙がおこなわれますが、実際に11月に本選挙が行われるまえに、まず共和党、民主党両党の候補がそろわなければいけません。

共和党はトランプ大統領が再選に向けて動いていますのでもう候補は決まっているようなものなのですが、民主党はまだ大勢の候補から一人を選出しなければいけません。その最初の手続きとなったのが今日行われた「アイオワ州の党員集会」です。

ところでこの候補を決める手続きには「党員集会」(Caucus, 発音はコーカス)と「予備選挙」(Primary, 発音はプライマリー)の2種類があります。これ、なかなか日本だと知っている人はいませんのでぜひ覚えておきましょう。

わかりやすいのは Primary のほう

大統領候補になるためには、それぞれの州のCaucusかPrimaryで勝ち進み、割り当てられた代表人の得票を獲得しなければいけません。民主党の場合、今年は4754人、4750票を争うことになります。

決め方のうち、わかりやすいのは Primary のほうです。これはそれぞれの州の人々が選挙を行うのと同じように票を投じて、得票数に従って代表人が割り振られます。ただし:

  • 民主党の場合は15%の得票を得ていなければいけないので、15%以上の候補の間で比例配分となります
  • 共和党の場合は winner takes all つまり勝者がすべての代表人の票を獲得します

また、primary には open primary と closed primary の二種類があって、open の場合には党員でなくても州の住人なら誰でも票を投じることができます。closed の場合は党員でなくてはいけません。

古式ゆかしき選出方法の Causus

それに対して caucus は、もっと複雑な選び方をします。Caucus は州の様々な場所で行われ、党員たちが集まって誰が候補としてふさわしいかをオープンに議論します。

そして、挙手などによって候補が選ばれるのですが、そこで先ほどの「15%の票を得ていなければ得票がゼロになる」というルールが生きてきます。

たとえば最初の評決で自分の支持している候補が2位になっていて、3位の人が10%しか票を集めていないとしましょう。この場合、2位の候補者の支持者は3位の候補者の支持者にはたらきかけて、自分の陣営に入るように説得を行います。

「あの候補に勝たせたくない」「いや、こちらと合流すれば勝てるかもしれない」といった思惑が交錯し、何度かの評決のうちに流れが決まってきて、最終評決で15%以上を獲得した候補が比例配分で代表人を獲得するというわけです。

Caucusはとても面倒ですし、原始的な政治プロセスなのですが、オープンで議論を誘発するという良さがあります。ただ、その煩雑さもあっていまでは Caucus を行っているのはメイン州、カンサス州、ネバダ州、ノースダコタ州、ワイオミング州、そして今回のアイオワ州だけになっています。

アイオワ州のCaucusが重要なわけ

アイオワ州が最も早い党員集会を行うのには、1960年代からの流れがあります。ニクソン大統領の選出後、より民主的で広い意見が反映されるようにするために候補の選出のしかたの見直しが行われました。

そこで小さい州ではあるものの、選出の仕方が複雑で多様な意見が反映されるアイオワ州が最初になり、ニューハンプシャー州が2番目になった経緯があります。

しだいに大統領選挙におけるメディアの役割が強まってくるに従って、アイオワ州党員集会のもつ意味も変わってきました。目立たなかったこの出来事が注目されたのは1976年のジミー・カーター氏の電撃的な大統領選で、以来アイオワ州は候補者選びの最初の風向きを見るための重要な州になったわけです。

その後バーモント州やニューハンプシャー州がアイオワ州よりも先に党員集会・予備選挙を行おうとした時期もありましたが、アイオワ州の根強い活動もあって、ここが一番最初と決まっています。

今年は引き続きこの話題を追いかけていくことにします。

(この記事はnoteで先行公開した記事のアーカイブ版です)

前の記事 次の記事
堀 正岳 (Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。

Categories

Tags