氷河の上を歩く!アサバスカ氷河のグレーシャー・アドベンチャー・ツアー
アイスフィールド・センターからバスと氷上車を使い、アサバスカ氷河の上を歩くことができるのが、グレーシャー・アドベンチャー・ツアーです。まさか氷河の上を歩くことができるなんて!
本業の関係で、氷河の調査をする人とは何人も知り合っているのですが、普通氷河の調査というと、1) まず氷河が見える場所まで移動するだけでもたいへんな旅で、2) そこから氷河の上にたどり着くために氷の上をルートを選びつつ急斜面を登攀する、というかなりの重労働です。
それと比べても、このツアーがいかに珍しいものであるかがわかると思います。アイスフィールド・パークウェイに来たなら、必ず寄ることをおすすめしたい場所です。## バスで氷河の近くまで。そこからは氷上車に
まずアサバスカ氷河の近くまでは普通のバスで登っていきます。氷河の先端のモレーンと、融け水によってできた湖を横目に進んでいきます。
写真の中央に緑が残されている場所がありますが、その手前に壁のようにみえているのがかつて氷河が押しのけた土砂の作った山です。
両側の谷からやってきた氷河によって、このように切り離された緑地がうまれたために、ここには周囲の他の場所には見られない珍しい植物の群落があるそうです。
バスで氷河の近くまでくると、ここからは氷上車に乗り換えます。直径1.7メートルの車輪が6輪ついた250馬力の特製車両で、56人の乗客を乗せて32度の傾斜を登り降りすることが可能です。
30度の傾斜というと本当にジェットコースターで谷底におちるように、先程まで水平にみえていた風景が屋根の上の窓から見えてきます。
堆積物の山を乗り越えて、氷河の上に。ここでも氷上車は滑ることなく確実に氷河の中央に向かって登っていきます。
到着! 本当に氷河の上です。ただの雪渓のようにみえますが、この氷河の中央部分ではこの足の下に285mの厚さの氷が存在します。エッフェル塔を埋めたとして、先端がかろうじて出るほどの厚さなのです。
振り返ると、数キロ先に氷河の先端が、そしてアイスフィールド・センターが見えます。
氷河の表面には、削り取られた岩盤や降り積もった堆積物が黒い粉のように浮き上がっており、溶け水が川になって注いでいます。
氷河がとけた水ですから触れるだけで一瞬で手がかじかむ冷たさです。一口のんでみると、つよいミネラルの味のする水でした。しかし後でガイドを読んでみると、「長い時間堆積した氷の溶け水には汚染物質も多く含まれているので多分飲まないほうがいいよ」と助言が。なんてこった!
ところどころにでいた穴をのぞき込むと、氷はしだいに深いところに向かって青い色を放っています。
普通の気泡が含まれている氷ならば白い色を反射するのですが、圧縮された氷は空気が締め出されています。すると氷の中には、もともと降り積もった雪の結晶に含まれていた小さなちりの凝結核だけが含まれた状態になります。いうなれば空と同じ状態。
だから陽の光があたると、青い光が反射してこうした神秘的な色となるのです。
氷河のうえから左右の谷間を見上げると、かつてはここに流れ込んでいた氷河の途切れた場所が見えてきます。
こうしてみると、本当に氷がまるで流れる水かなにかのように流れているというのがわかります。
氷はあるところまでは私たちがふだん触れるように岩のような硬い性質をもっているのですが、極限まで圧縮されるとむしろ飴のような性質に変化します。そのおかげで、こうして氷河が流れるのですね。
以前紹介した世界一長い科学実験という話題も、一見個体にみえる物質が、長い長い時間という視点でみるなら水のように振る舞うことを調べているのです。
もう片方の谷間には、ドーム氷河から流れてきた氷の一部分が。この先に、コロンビア氷原の最も高い場所、スノードームがあるのです。
アサバスカ氷河の氷河ツアーはたった10分。しかし氷河の上を歩くという体験は長い長い時間のただなかに突き出されるような未知の経験でした。
いまこのアサバスカ氷河は年に数メートルずつ、後退しているといいます。氷上車によるツアーも、よけいな堆積物を氷河のうえにもたらし、融解を進めてしまうことが危惧されているため、いつまで続けられるのかわかりません。
地球の気候は人間が思うほど一定したものでも、安定したものでもありません。いまこうして氷河を観光できるのも、ほんとうに恵まれたタイミングなのかもしれません。
そんな地球の途方もない時間スケールを知るためにも、この場所は訪問しておく価値があるでしょう。
さて、アサバスカ氷河からアイスフィールド・センターに戻ったら、こんどはもう一度バスに乗り、もう片方の観光スポットに向かいます。絶壁から突き出た展望台、アイスデッキです。