映画「プロメア」:熱さと、痛快さと、答えのない問題への答え

2019 年 05 月 23 日

「天元突破グレンラガン」「キルラキル」の強力タッグ、監督:今石洋之氏と、脚本:中島かずき氏によるオリジナル劇場アニメ「プロメア」を公開前夜祭で見てきました。いやあ、熱い。

この2作品のファンなら、極限まで研ぎすまされたコミカルな演出とリアリティのバランス、歌舞伎の大見得さながらの台詞回し、そしてエネルギー保存則など無視した物語のスケールのインフレーションはすでにご存知でしょう。理屈が入る余地を与えず加速するストーリーの疾走感は、痛快そのものです。

今回の物語は、全世界の半分を燃やし尽くした「バーニッシュ」という突然変異した人類の誕生から30年が経ち、その脅威が封じ込まれつつある時代のとある自治国家「プロメポリス」が舞台。主人公である火消しのガロ・ティモスと、バーニッシュの攻撃的集団のリーダーであるリオ・フォーティアの激突を軸に、地球の命運をかけた戦いが描かれます。

その対立はさらなる真実と、はるかに巨大な危機へとつながってゆく、というのがストーリーの本筋です。

グレンラガンのような戦いのスケールのインフレーション、キルラキルの流子と皐月のような魂のぶつかり合いを見たいならば、観客は十二分に満足できるはずです。でも、もちろんそれだけではない他のなにかも期待したいところですよね?

マインクラフト的な視覚の仕掛けと声の魔術

予告編をみれば気づくのは、ポリゴン(多角形)的なブロックで表現された炎や煙、そして建物のスタイリッシュな演出です。まるでマインクラフト。

ガロとリオの最初の戦闘は目で追いかけるのが難しいほどのスピードで繰り広げられますが、煙もなにもかもがこうしたブロックで表現されていますから、カメラが高速に回り込んだときに視点の変化を把握しやすいのだということが徐々にわかってきます。

この高速カメラワークが最後になればなるほど極端になっていきますので、これは単に見た目のためのものではなく、観衆をとんでもない映像表現につれてゆくための、仕掛けなのではないかと見ていて思うわけです。

https://youtu.be/RzFFaLB6fHw

また、今回は主役のガロの声を松山ケンイチさんが、リオ・フォーティア役を早乙女太一さんが、そして重要なキャラクターである司政官クレイ・フォーサイト役に堺雅人さんと、俳優が固めています。

この声の表現のインフレーションがまたすばらしいわけです。熱い火消しのガロ役の松山ケンイチさんはリハーサル一発目で声を嗄らす勢いで臨んだそうですし、クールに登場した早乙女太一さんの声も中盤で張り裂けるような声で悲しみと怒りを表現し、終盤にかけての堺雅人さんの声ははっきりいって常軌を逸してます。

テレビアニメと違って時間的な制約があるなかで、この実験的な空間表現と絶叫のもたらす感情のゆさぶりが、今石監督と中島かずきさんの世界観をささえて劇場版アニメとして成立させていたと思います。

答えのない状況への答え

一方、観客が「おいおい、それでいいのか」と自問自答する間も与えない勢いで猛烈な力技で作品を畳んでゆく流れは快感といえば快感なのですが、本当にそれでいいのかと、前夜祭から帰ってから考えた部分もありました。

たとえばバーニッシュたちが受けている差別と迫害は、理性や理屈だけでは解決できないものでした。作中では、そこまでの残酷な描写はしていませんが、少し考えるだけでも、その姿に何年もの内戦と犠牲の末に惨めな敗北を喫しつつあるシリアの人々や、法律と秩序の名のもとに弾圧を受けるミャンマーのロヒンギャ族などのことを思い出して、比較できるモチーフを見出すことはできます。

後半に世界を襲う危機も、とてもではないですが普通に考えれば解決が不可能な問題で、不可能だからこそどんな残酷行為や圧政も容認されてしまう状況にも、やはり答えはありません。

「プロメア」は、作中でその問いに対して明快な回答を与えません。ええ? それってありなの? と思うような破天荒さで、危機はあくまで痛快に解決され、そこに澤野弘之の音楽がバーンと入ってきて盛り上がるわけですから、どこまでも熱く!痛快で!そしてズルいわけです。「あー、ズルいなあ」と思いながらも気持ちがいいからいいか、となるわけです(笑)。

解決しようのないスケールの問題が人類を襲ったときにどんな決断があり得るのか? という裏テーマは、観客が宿題として持ち帰らなければいけないわけですが、ひょっとしたら答えなどなく、どこまでも前を向く主人公たちのように突き抜け、うまくいけばうまくいく、うまくいかなかったらそこで終わりというくらいの単純さでいいのかもしれない。そうした身も蓋もない希望が、中島さんの脚本の随所に見え隠れしています。

劇場をあとにしてからも、心の中にそうした希望の小さな炎が消えなければ、本作品は思い出に長く残ることでしょう。

堀 正岳 (Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。