新しい歴史雑誌のかたちを模索するContingent Magazine

新しい歴史雑誌のかたちを模索するContingent Magazine

先日、クラウドソーシングによるジャーナリズムを目指したThe Correspondantが話題になっていましたが、それと似ている、アカデミック側のとりくみとして、Contingent Magazineというプロジェクトが立ち上がっています。

For Want of a Nail from Contingent Magazine on Vimeo.

この雑誌のテーマは歴史学です。ある時代や、特定の分野へのフォーカスがあるわけではなく、読者に専門的で面白い歴史の話題を提供することが創刊の目的となっています。

もう一つ面白いのが、この雑誌の編集・執筆をしているのが、すべて歴史学の分野においてPhDを取得しているものの、テニュアの職についていない人々だということです。

Contingent という雑誌の名前は「不測の事態」という意味をもっており、歴史とはなにか一つの原因だけで語れるものではなく、多面的であるがゆえにいくらでも考察を深めることができるという思いをこめているとともに、「不確定な」という、アカデミックポストのない不安定な状況を指す意味ももっています。

これは Contingent Magazine の説明のなかにでてくる図ですが、歴史学のPhD所有者は80年代以降着実に増えているのに(橙色)、2008年のリーマンショック以降、彼らが働くことができる職の数は急激に減っているのがわかります(青線)。似たようなことは、歴史学だけでなくさまざまな分野で起こっています。ええ、日本でも。

よく、研究者の道をあきらめて別の分野に行く人々のことを敗者のように扱うひとが内外にいるのですが、単に運が悪かった、こうした外的な状況のせいでキャリアの落とし穴にはまってしまうケースだって多いのです。彼らの知識や才能が、そういう扱いを受けて仕方がないくらいに低いとは限りません。

Contingent Magazineは、あえてテニュアトラックの職についていない人々が編集することで、歴史学を修めた人々にアカデミアとは違った別の未来を模索するという試みなのです。

もちろん、この実験は非常に難しいものがあります。現在の編集チームの人件費と運営費をまかなうために、月額で1万8000ドルがかかる予定で、現在はその創刊号にむけたクラウドファンディングが行われているところです。

創刊後は、継続して雑誌を運営できるように定期購読者を増やしたり、出資を集めたりといった活動もおこなうということです。

私も、研究者のはしくれとしてこの未来には希望を感じています。さっそく出資しておきましたので、今後の様子についても定期的にご紹介したいと思います。

Written by
堀 正岳