entitlement:「意識が高い」を英語で表現した言葉

言葉は一対一に対応しているわけではありませんので、当然ながら日本語にある表現が英語にはない、あるいはその逆が常にあります。

また、対応する語句があっても、使う場面や意味合いが違うといったこともしばしばで、それを無理に翻訳しようとするうちに意味が消失してしまうこともあります。

今回紹介するのは、日本語の意味も使う人によって意味が違う「意識が高い」という言葉です。本来は、志や、視座の高さを指す言葉ですが、実力が(まだ)ともなわないのに志ばかりが高い人のことを揶揄して使うことのほうが最近は多いようです。

これに対応する英語はあるのでしょうか?

entitlement という言葉の意味

意識が高いという言葉を、そのまま翻訳してももちろん意味は通じませんので、こうしたときはよく、意図を読み取って訳語をあてはめることが多くなります。志ばかりが高い人のことにうんざりしているときは annoying (イライラする)といった言葉ですね。

でも、まったく異なる言葉で、同様の意味合いを表現しているものがあります。それが “entitlement” です。正確には、“sense of” を前に付け加えて、“sense of entitlement” といった場合です。

“entitlement” はもともと権利、資格といった意味で、“entitled to…” と使うなら「〜に対して権利をもつ」という意味合いになります。ここには揶揄する意味はありません。

“sense of entitlement” も、本来は権利をもっているという意識、認識のことを指す言葉で、「権利意識」などと翻訳されることが多いようです。これは、基本的人権などについて、それを本人がもっているという自覚があることと表現してもいいでしょう。

付け加えられていた意味

しかし最近では “sense of entitlement” という言葉は、この使い方よりも、もっとシニカルな意味で使われるほうが多くなっています。

それは「自分にはこれだけしてもらえる権利があるはず」「自分は◯◯だから××してもいいはず」といった考えをもっている人に対して使う言葉としてです。

Urban dictionary は簡潔に、「自分には与えられて当然だと考えていることが、他の人からみて努力で勝ち取るべきものである場合」という定義が書かれています。

完全に一致はしていませんがこれ、日本の「意識が高い」という言葉を揶揄する目的で使っているときと共通している部分が多い表現になっています。

“his / her sense of entitlement is 〜” という表現があった場合、「あのひとの『私はこれだけのことを言う権利がある』という態度は〜だ」という意味になります。

“entitled to” という表現で、「〜に対して権利がある」という意味合いになりますが、他人の目からみてそれが分不相応に思えるために、“sense of"という部分が付け加わるわけです。

他人の目から見て、がポイント

でも、日本語と英語で共通している部分もあります。それはこの言葉が、俗に言う「意識の高い」ひと本人の口から出てくるわけではなく、それを見ている人の側から出てくる点です。

「意識が高い」という言葉を使うのは、他人に対してそういう目を向けている人です。また、“sense of entitlement” という言葉を使うのも、他人に対してそういう目を向けている人です。

さきほどの Urban dictionary の定義にもあったように、後段の「他の人からみて、努力で勝ち取るべきもの」というのがポイントになるのです。

他の人の努力は、外から見てわかりにくい、あるいは認めたくないという心理も働くために、この言葉は、えてして言われている側の本質ではなく、この言葉を使っている人の視点を明らかにしてしまうのです。

“sense of entitlement” という言葉が使われているときには、なぜその人がその言葉を選んだのか、こうした言葉を使う人の視点はどのようなものなのかにまで立ち入って考えると面白いでしょう。

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2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。