Gravitational Wave と Gravity Wave、同じ「重力波」でもまったく違う意味

CaltechとMITが、LIGO(レーザー干渉型重力波天文台)において初めて重力波を観測したことが大々的に報じられています。

物理学を学んだ人にはもちろん興奮するニュースなのですが、人類全体にとっても、音の波、光の波とはまた違った、重力の波というまったくことなる物理の世界が開いたことは祝賀すべきことです。私たちがX線によってまったく新しい視座を与えられたように、重力波は宇宙について新しい知見を次々と教えてくれることでしょう。

しかし一つ、ここで用語として不思議な点があります。日本語では「重力波」と呼ばれるこの現象、Gravitational Wave なのか、Gravity Wave なのかで混乱がみられた場所もありました。

大事なのは、今回見つかったのは Gravitational Wave のほうで、それはまったく異なる現象なのだという点です。

Gravity Wave とは?

まず「今回のではない」ほう。Gravity Wave とはなんでしょう。これは流体や気体のなかにおいて重力を復元力とする波のことを指しています。

バネにおもりを付けて、おもりを少し引っ張って離すとおもりは上下に振動しますが、なぜ下がっては戻るのかというと当然バネが引っ張っているからです。ここではバネが復元力として波を生み出しています。重力が復元力となっているということは、このバネの役割を重力が果たしているということになります。

一番身近な例で言うと、海の波が Gravity Wave の一種です。界面がぐいっと盛り上がっても、重力がそれをさげようと引っ張り、深さに応じた振動が起きます。次第に深さが浅くなると、エネルギーの量に耐え切れず波が砕けるようすは、波打ち際でいつもみる光景ですね。

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目に見えない大気にも重力波があります。たとえば山の上を空気が乗り越えて上昇したものの、重力に引き寄せられて上下に振動すると山岳重力波が生じます。雲が山のうしろできれいにいくつもの筋をみせているとき、そこには Gravity Wave があるのです(画像は NASA Visible Earthより)。

Gravitational Wave とは?

では今回観測されたほうは? こちらはアインシュタインの一般相対性理論によって存在が示唆されていた、重力そのものの波動です。一般相対性理論では重力は空間の曲率、つまりはゆがみです。重い物体があれば、それだけ空間がゆがみ、二つの重い物体が互いの周りを回転すると時空の歪みは波となって周囲に広がっていきます。

眼に見えないものだからわかりにくいと思いますが、原理は水のうえに波を起こすこととなんら変わりません。

Gravitational という単語は、Gravity 「重力」に対して「重力の」「重力による」という意味があります。ふだんは the gravitational pull of the moon 「月の引力」などといった時にしか使いませんので、今回これほどまでに大体的に使われたのは、この単語初のできごとでしょう。

日本語だと両方とも同じ「重力波」なので困らないのだろうかと不思議になるかもしれませんが、Gravitational Wave は宇宙物理、Gravity Wave は大気科学、海洋学、流体力学などで用いられる言葉で分野と用法がはっきり分かれていますので、何の話をしているのかコンテキストがはっきりしている限りにおいては「重力波」で誤解は生じないのです。

さて、Gravitational Wave の観測は今後も続きますが、それは宇宙についてどんな知見をもたらしてくれるのでしょう。

xkcd は多少ユーモアのある予想を立てています。

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2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。