情報カードの冒険:知的生活の「情報の壁」は人類のボトルネック

情報とは、いつから、より多く手に入れるべきものから、余分なものを削ぎ落とすものになったのでしょう。

情報がより多くあれば、私たちは英語でいうところの informed decision、つまりは情報に通じたうえでの決断を下せるようになります。だから情報はより多くあれば良い。それが第一段階です。

しばらくすると、追加される情報は決断のクオリティを向上させていないことに気づきます。重複が存在し、遠回りが存在し、無関係な情報や、一見関係しているけれども雑音でしかないものが混じります。そしてそれを一切除去してみても、今度は、生の情報そのものは、決断や、創造的な作業に直接使えない場合があることに気づくのです。これが第二段階。

私はもうずっと、研究者として情報を渉猟するうちに、ブロガーとしてネタをさがすうちに、この第一段階と第二段階のあいだをアンビバレントな気持ちのまま飛び回っているという気持ちでいます。

ウェブを検索したり、Evernoteに集めたノートを見渡したり、論文整理アプリPapersで論文を並べるときは、より多く、より網羅した情報を集めたいと思います。

でもしかし、いざそれを統合して新しいなにかを生み出そうとするときには、それがたった一つの論文の段落であったり、ブログ記事であっても同じなのですが、集めた情報を頭のなかで統合しきれずに、困惑します。それは消火栓からコップで水を飲もうとしているようなもので、有用なものが制御出来ないときの戸惑いです。

Clay Shirkeyは情報爆発について「情報の量が問題なのではない。それはフィルターの機能不全」なのだと言い、適切なフィルターによって有用と無用なものを分けることが重要であり、それはいずれ人間の手を介さず自動化できると予測をたてました。

これに異を唱えるひともいます。Wikipedia の Information Overload の項目には、認知科学の分野においておいて情報爆発を、「情報構造の欠如」ととらえる見方について紹介がされています。

Some cognitive scientists and graphic designers have emphasized the distinction between raw information and information in a form we can use in thinking. In this view, information overload may be better viewed as organization underload. That is, they suggest that the problem is not so much the volume of information but the fact that we can not discern how to use it well in the raw or biased form it is presented to us.

いくらかの認知科学者やグラフィックデザイナーは、生の情報と、我々が思考に利用可能な情報との違いを強調する。この見方では、情報爆発は構造の欠如と捉えうる。つまり、情報の量が問題なのではなく、それを解釈する人間の側で利用可能な構造が見えてこないことが問題なのだ。

RSSや、無限にあふれだすSNS上の情報から有用なものを選び出す場合には、フィルターという考え方は適切だと思います。しかし、すでに集めたEvernoteのノートからなにかを選び出し、見通しを立てやすい並べ方をしてこうしたコラムを書こうとする場合には、むしろ私はこの構造の欠如という考え方に魅力を感じます。

情報はふんだんにあります。でも私たちの頭のバッファはそれにあわせて拡大していないのです。

これを上手にできるひともいれば、どうしても一度情報をカードに書き出して机のうえに並べないと見通しが立たないという人もいます。

その両者も、おなじことをいまの100倍、1000倍、10000倍のスケールでやってほしいと言われると、そこでフリーズしてしまいます。認識可能な情報のバッファ幅は、人類の知的創造性のボトルネックなのです。

この短い記事で、それに対する特効薬を示すことはできません。まずはこうした状況があることを知り、利用可能な情報を認識するためには、どんな方法があるかを意識することから始める以外にないのです。

私にとってはいまだにそれは情報カードです。あなたにとっては、どうでしょう?

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2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。