高さ300mの嘆きの壁。カナダ・アルバータ州のWeeping Wallを見上げる

2016 年 01 月 04 日

かつて私は、Weeping Wall と呼ばれる場所にいたことがありました。

カナダ、アルバータ州の国立公園を縦断するアイスフィールド・パークウェイの途上、場所を意識して車をとめなければそこがそれだとは気づきません。

川沿いから見上げると頂上のみえない高さ300メートルもの断崖。その壁から染み出すように湧き水が涙のように流れだしています。まるで岸壁全体が泣いているように見えるので、Weeping Wall、つまりは「嘆きの壁」と呼ばれているわけです。おそらくは、イスラエルのそれを思い起こさせるので、誰となくそう名付けるようになったのでしょう。

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ふもとからは見えないものの、この壁の上には三角の頂点がいつも雲をまとっているせいかシーラス山、つまりは「絹雲の山」と名付けられた山があります。もちろん夏も消えない氷河からは春から夏に水が溢れだし、その一部がこうして岸壁を這う滝となっているわけです。

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暖かい時期にはこうして流れる水も、冬になれば氷、巨大な氷壁となります。Weeping Wall はむしろ冬にはアイスクライミングの名所として有名な場所なのです。

一方で、この急峻な壁にはりついた雪と氷が一度に落ちると雪崩となって大きな被害がでます。そこで、ときとして岸壁にはわざと砲弾が打ち込まれて計画的な崩落を起こすこともあるのだそうです。道路沿いにはその副産物である不発弾に注意を喚起する看板も。

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Weeping Wallの近くの岸壁は峨々として、どれも高さは等しく空をえぐっています。かつてここは巨大な台地で、長い長い時間をかけて氷河が私の立っていた谷をくりぬいていったのです。斜面の途中からは紅葉美しいポプラの木も生えなくなり、そこが森林の限界であることを示しています。

衛星からの画像でみると、巨大な岸壁にも多様なひだがあって水の流れを予感させます。火星で水の流れた形跡が発見されたという地形もちょうどこれに似ていて、水の営みの普遍さを思い起こさせます。

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旅は歩みをすすめることですが、小さな標識があるだけで気づかなければ通りすぎてしまう場所にほんの少し立ち止まることも旅です。氷河から吹き下ろす風の冷たさと斜面を彩る紅葉の美しさを心に留めて、私はそこを立ち去りました。

ここへの道のり

Weeping Wall にたどり着くには、アルバータを貫く国道93号線、アイスフィールド・パークウェイをジャスパー国立公園の南端へ、あるいはバンフ国立公園の北端へと車でいかなければいけません。場所はさりげないのと、携帯電話の電波がほとんど入りませんので、あらかじめ場所の距離感を定めておくか、ガイドに相談しておくと相談しておくとよいでしょう。

「かつて私は」シリーズについて

このシリーズは、以前旅をしたのですが、なかなか書ききれていなかった話題について掘り起こしをするエントリとなっています。

旅記事は本当は旅とともに臨場感をもって更新したほうがほうがよいのですが、なかなかそうはいきません。しかしもったいないので、時間がたってからでも、読める体裁に編集してお届けしています。それぞれの記事は公開後に対応する旅カテゴリに格納される予定です。

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堀 正岳 (Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。

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