Monument Valleyの新章 "Forgotten Shores" に込められた想い

あり得ない地形と建物を歩くゲームとして大ヒットし、Apple Design Award 2014にも輝いたMonument Valleyに、ゲーム内課金で購入することのできる新章 “Forgotten Shores” 「忘れられた岸辺」がリリースされています(過去の記事)。

ゲームは非常に単純でいて、美しい世界観で多くの人を魅了していましたが、開発者たちを特に驚かせたのは、「このゲームを子どもと一緒にしている」「親にこのゲームを紹介して喜ばれた」「これが生まれて初めてダウンロードしたゲームだ」といった反応がたくさんやってきたことだったそうです。

そこで作られた新章、 “Forgotten Shores” は、その世界観を壊すことなく、ファンの声にこたえるために誕生した開発陣からの返答となったのです。

そのことを、私たちはリリースにさきがけてアップされた動画で知ることができます。Monument Valleyには流れ去った膨大な時間を感じさせる演出はあるものの、物語らしい筋書きはほとんどなく、謎に満ちた雰囲気を楽しむように作られています。

しかしそれがかえって、Tumblrに集約されているファンアートのように、語られていない部分を埋めようとするファンの大きな反響の原動力となりました。

とりわけ反応が強かったのが、ゲームの中盤に登場するトーテムの存在です。主人公のエイダと出会い、迷宮を助けあいながら切り抜けた末、トーテムはエイダを追いかけようとしつつ海のなかに沈んでゆくという演出があるのですが、この場面にいいようのない悲しみを覚えたファンが大勢いて、たくさんのメールが開発者にもとに届いたのだといいます。

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そこで “Forgotten Shores” ではトーテムとエイダの関係、語られていない旅について穴をうめるという作りが採用されました。また、時間の関係で実装することができなかった視覚上のイリュージョンや、Monument Valley のより広大な風景がどうなっているかといった描写も登場します。

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面白いのは、“Forgotten Shores” は Monument Valley の「続編」ではないという点です。Monument Valley の世界は最初にリリースされた10のレベルで完結しており、そのラストも変わりません。

“Forgotten Shores” はあくまで「付録」として、その世界観を広げるためのものなのです。実際、その最終面に到達すると、散りばめられた過去、現在、未来がどこに集約するのかが予感される演出が入ります。

通してプレイしてみると、“Forgotten Shores” は元の Monument Valley よりも遊び心が多く、「ここまでやってもファンは喜んでくれるはず」という自負がみえます。「泥棒」の章などは、まったく別のゲームではないかと思うほどですが、これもあのユーモラスなカラス人間たちを、より楽しんでもらおうという開発者たちの想いが見えてきます。

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語られてなかったトーテムとの時間、カラス人間の可笑しさ、Monument Valley の風景、より難易度の高いイリュージョン、そして手数がずっと増えたパズル。どれもが、ファンが「もっとこの世界が欲しい」とよびかけたことに対するこだまのような応答になっているのが見事です。

「つくろうと思えば50レベルだって作れた」という開発陣。それでも8つの新しい章に集約させて、あくまでミニマルな形でより広大な世界観を表現した手腕は見事です。

残念なのは、ひょっとすると、これが最後の Monument Valley の世界なのかもしれないという点です。付録に、付録は必要ありませんから。またどこかで、トーテムと会うことができるのでしょうか。それもまた Forgotten Shores から叫ばれるファンの声次第なのかもしれません。

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2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。