"Man of Steel" の予告編にみるヒーローとアイデンティティ

2013 年 05 月 13 日

かつて雑誌のなかでしか見ることのできなかったスーパーヒーローがスクリーンに飛び出してくるのはもちろん痛快なのですが、それにしても数が多すぎはしないかと少し敬遠していたところでした。

しかしこの夏公開予定のスーパーマンの新作、“Man of Steel” の予告編 #3 をみたら期待感がぐぐっと高まってきました。

この映画、ちゃんとスーパーマンがなぜスーパーマンになったのか。そのアイデンティティに切り込んでいることが予告編からうかがえるからです。

What if a child dreams of becoming something other than what the society has intended…?

What if the child aspire to something greater?

子供が、その社会が彼にわりあてた役割と違うものになろうと夢見たなら…?

その子供がさらに偉大なものにならんとしたなら?

これです、この物語が見たかったのです。## ヒーローとアイデンティティ

スーパーヒーローというものは、スパイダーマンにせよ、バットマンにせよ、ハルクにせよ、何らかのアイデンティティ・クライシスをもっているものです。そのアイデンティティの危機との格闘が、ヒーローに一種のリアリティをあたえてくれます。

スーパーマンはこの意味でも特別な位置を占めるスーパーヒーローです。彼は異星から送り届けられたいわば捨て子で、しかも地球人として育てられ、暮らすクラーク・ケントというアルターエゴがあります。圧倒的な力とは裏腹に、彼のアイデンティティには常に危ういものがあるのです。

予告編の中でも自分の生い立ちを知った少年クラークが「このまま、お父さんの息子のフリをしてるのじゃダメなの?」と悲痛な声を上げているシーンがあります。

「もちろん息子だとも」と抱き寄せる育ての親はしかし続けます。「しかしお前がここに来た理由が何かあるはずなんだ。そして残りの人生のすべてをかけようとも、それを探さないといけない。それが自らに対する責任なんだ」と。

やがて成長したクラークは、この言葉のとおり、世界における自らの居場所、生きる意味を求めて流浪します。

基本的なプロットは過去の映画を踏襲しているはずですので、このあとに続く声は、北極のFortress of Solitudeでクラークが耳にすることになる実の父親 Jor-El の声のはずです:

You’ll give the people of Earth an ideal to strive towards.

They will rest behind you.

They will stumble.

They will fall.

And in time, they will join you in the sun.

In time, you will help them accomplish wonders.

お前は地球の人々に目指すべき理想を与えることだろう

彼らはお前のもとで休むだろう

あるいはつまずき、倒れるだろう

しかしやがて、彼らはお前とともに光のなかに入るだろう

やがて、お前は彼らがすばらしいことを成し遂げることを助けるだろう

この部分が本当にすばらしい。映画の作り手は、遠い異星に何の説明もなく投げ込まれた、ただ一人の男の孤独と、自分の存在理由への問いかけをプロットの一部分としてとりこんでいるわけです。

そして彼がそのアイデンティティの危機を乗り越えることは、やがて他の人へも希望をもたらすことだろうと告げているのですね。

最後の行が “you will accomplish wonders” ではなく、“you will help them accomplish wonders” となっているのも注目です。つまり「お前はすばらしいことを成し遂げるだろう」ではなく「地球の人々がすばらしいことを成し遂げる助けとなるだろう」というわけです。

そう、スーパーヒーローの、そして人間の真価はけっきょくどんなスーパーパワーが使えるかではなく、それを使って何を成し遂げたのか、どれだけ人を助けることができたのかだという、ヒーローのアイデンティティの危機への解決へとつながっているのです。

ところでスーパーマンといえばこの曲も忘れがたいものがあります。Five for Fighting のそのままズバリ「Superman」という曲の歌詞です。

Only a man in a funny red sheet,

looking for something special things inside of me,

I’m only a man in a phony red sheet,

I’m only a man looking for a dream.

It’s not easy…to be me

アイデンティティに苦しむのは何もスーパーヒーローだけではありません。でも無敵に思える映画の中のヒーローがそれと戦い、克服してゆくのを見ることで私達の中にも勇気がわいてくるのです。

何をすべきなのか? 自分はなにができるのか? 人間が真に生きようと思った時に必ず直面する問いに触れてくれているみたいで、この夏、見に行かなくてはいけない映画がまた一つ増えました。

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堀 正岳 (Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。

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